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借地とは他人から借りた土地を言います。また、借地権とは他人から借りた土地を自由に使う権利を言います。
借地に夫婦で家を建てた後、離婚することとなった場合、建物自体は問題なく財産分与の対象となりますが、あわせて借地権の引継ぎも必要となる点に注意しましょう。
借地上の持ち家を財産分与する方法
婚姻期間中に夫婦が借地上へ建てた家は、離婚時において財産分与の対象となります。ただし、離婚後に夫婦どちらかの一方が財産分与で家を取得する場合、地主との間で交わした借地権の取り扱いに注意する必要があります。以下、借地上に建てた家の財産分与について、主な2つの方法を確認しましょう。
【財産分与の方法①】売却して現金を夫婦で折半する
建物を売却し、夫婦で売却金を折半する方法です。
この方法を採用する場合、売却前に地主との間で売却の了承を得なければなりません。売却の了承を得ずして無断で建物を売却した場合、借地権の無断譲渡となる恐れがあるからです(民法612条)。
仮に、地主から借地権の無断譲渡を問われた場合、建物の買主は家に住めなくなる可能性があります。結果、売主は買主から損害賠償を請求されかねません。
【財産分与の方法②】一方が家を取得し、もう一方に代償金を支払う
妻が家に残り、代償金として家の評価額の半分を夫へ支払う、というケースです。
このケースの場合も借地権に注意しなければなりません。なぜならば、仮に夫名義で借地契約を結んでいた場合、妻に対する借地権の無断譲渡に該当する恐れがあるからです。
代償金による財産分与においても、あらかじめ地主との間で借地契約の名義変更を済ませておく必要があります。
借地と持ち家のよくある離婚トラブル
借地上に建てた持ち家の財産分与に際し、民法612条を根拠にした地主からの契約解除に基づくトラブルが多く見られます。
以下、まずは民法612条の条文を確認し、その上で借地と持ち家に関連する離婚トラブルについて見ていきましょう。
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
出典:e-GOV法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)
地主の承諾を得ずに売却した
離婚における財産分与の際、家の売却金を夫婦で折半する方法はごく一般的に見られます。この場合、その土地が夫婦名義の土地であれば特に問題はありませんが、もし借地だった場合、地主の了承を得ず無断で売却するとトラブルになりかねません。
なぜならば、建物の売却と同時に借地権まで買主へ無断で移動させる権利は、売主(土地の賃貸人)にはないからです。
仮に、地主の了承なくして家を売却した場合、地主の意向で買主は土地から追い出されかねません。もし買主が土地から追い出されれば、買主は売主に対して損害賠償を請求する可能性もあるでしょう。
地主の了承を得ずにパートナーを家から追い出した
離婚における財産分与の際、妻が家に残って夫が家を出るケースが一般的に見られます。この場合、妻が夫に対し、家の評価額の半分にあたる金額を支払う形となるのが基本です。
しかしながら、もし家の建つ土地が借地で、なおかつ借地契約が夫婦名義だった場合、地主との間でトラブルになりかねないので注意してください。なぜならば、地主は家に残る妻だけと借地契約を結んでいるのではなく、2人が夫婦であることを前提に夫婦2人と借地契約を結んでいるからです。
仮に地主に無断でパートナーを家から追い出した場合、地主との間で契約違反(無断譲渡)が成立する恐れがあります。
地主が借地権の譲渡を承諾してくれない
たとえば妻が家に残り、夫が家を出ていく場合で、かつ夫婦名義で借地契約を結んでいる場合、事前に地主に対し、以後は妻1人が借地契約の名義人になること(借地権の譲渡)の承諾を得る必要があります。
ところが、何らかの事情により地主が借地権の譲渡を承諾してくれない場合、夫婦の財産分与が円滑に進まず、離婚トラブルに発展しかねません。
不動産あんしん相談室
神田 加奈氏
地主との間でトラブルになった場合は
弁護士に相談を
離婚に伴い地主が借地契約を解除した場合、以後、その土地を自由に使用することができなくなるため、家に住めなくなる可能性があります。
しかしながら、夫婦が地主に対して背信的行為を行ったならいざ知らず、特段に考慮すべき理由もない地主が一方的に借地契約を解除することは、難しいでしょう。もとより、仮に家に妻が1人で残る形になったとしても、建物の構造が変わるわけではありません。妻が土地の賃料を支払い続ける限り、地主に特別な損害が生じる可能性は少ないでしょう。
これらの理由から、離婚に伴い地主が強制的に借地契約を解除することはできないと解釈されます。もし地主の対応が厳しい場合、または借地契約をめぐってトラブルになった場合には、早々に弁護士を介入させて話し合いをしたほうが良いかもしれません。
一般社団法人不動産あんしん相談室は、離婚と不動産のトラブルに詳しい弁護士とのネットワークを構築しています。同様のトラブルにお悩みの方は、ぜひ気軽に相談してみてください。
借地権とは
借地権に関する基本的な知識・考え方を確認しましょう。
譲渡にあたらない限り、借地は自由に利用できる
借地権の「譲渡」にあたらない限り、土地の借主は、借地を自由に利用できます。自分の家を建てることはもちろんのこと、一般的にはアパート・マンションを建てて経営することも可能と解釈されています。
背信行為にあたる場合は承諾料の支払いや代諾許可申立て等を行う
借地権の「譲渡」に該当し、かつ背信行為にあたる場合、地主は借主に対して承諾料(名義書換料)を求めることが現実的な対応となります。
承諾料の金額は、第三者への譲渡と同水準(借地権価格の約10%)より下であることが通常。下でない場合、借主は地主に減額交渉を行いますが、地主が交渉に応じない場合、借主は代諾許可の申立て(借地非訟)を検討します。
なお、離婚にともなう財産分与においては「譲渡」に該当する例が多くなりますが、仮に譲渡に該当したとしても「背信行為」にはあたらないとの解釈が一般的です。
背信行為にあたる基準とは
借地権の契約時、すでに借主が婚姻関係だった場合、離婚の財産分与にともなう借地権の譲渡が生じたとしても、地主に大きな不利益があるとは言えません。そのため、離婚の財産分与における借地権の譲渡は背信行為にあたらないとの解釈が一般的です。
一方、借地権の契約時に借主が独身だった場合、その後、借主が結婚してパートナーと同居し、離婚の財産分与にともなって借地権がパートナーへ譲渡されると地主にとっては想定外の展開となるため、背信行為の有無を争う余地があるでしょう。
離婚後に家を譲渡されても借地権をめぐる
トラブルに発展する可能性は低い
借地上に建てた家を妻が譲渡されたとしても、基本的に地主から不当な請求を受ける恐れはありません。ただし、結婚前に元パートナーが借地契約を結んでいる土地の場合、離婚後に地主との間でトラブルになりかねない点も理解しておきましょう。