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離婚時の財産分与における期限には、請求できる期限と実際に取得を求める期限があります。前者を「除斥期間」と言い、期間は離婚成立から原則2年。また、いったん協議や審判で内容が確定した後の引渡し請求の期間を後者「消滅時効」と言い、現行民法では5年または10年が基準となります。
なお、2024年5月の民法改正により除斥期間は5年へ延長され、その施行は2026年5月までに予定されています。本記事では、現行ルールと改正点、実務上の進め方を整理して解説します。
財産分与の請求期日2種類
財産分与には、請求できる期限と、確定後に受け取りを求める期限の2本立てがあります。
請求期限は「除斥期間」で、現行は離婚成立から2年(改正後は5年へ延長予定・2026年5月までに施行)。引き渡しなどの実行は「消滅時効」の枠組みとなり、原則5年または10年で進みます。民法の位置づけを押さえて判断しましょう。
除斥期間と消滅時効の違い
どちらも「一定期間で権利を使えなくなる」点は同じですが、性質が異なります。
除斥期間は離婚成立日を起点に進行し、延長や完成猶予・更新の対象にならず、満了で当然に請求権が消えます(改正後は期間が5年へ)。一方の消滅時効は、権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年のいずれかで進行し、内容証明送付や調停申立て等で「完成猶予・更新」が働きます。また、時効は相手方の援用が必要という点も相違点です。違いを前提に進め方を選びましょう。
| 除斥期間 | 消滅時効 | |
|---|---|---|
| 猶予・更新 | なし | あり |
| 相手方の援用 | 不要 | 必要 |
| 起算点 | 権利が発生した日(離婚成立日) | 権利を行使できることを知った時 |
財産分与の時効を伸ばす方法
財産分与には、請求の締切である「除斥期間」と、支払い・引き渡しを求める場面で問題となる「消滅時効」があります。どちらも放置すると権利を失うおそれがありますが、消滅時効については一定の手続で進行を止めたり、仕切り直したりすることが可能です。
ここでは実務で用いられる代表的な三つの手段を取り上げます。
内容証明郵便による「催告」
内容証明で請求の意思を示すと、消滅時効は最長6か月、完成が猶予されます。その間に調停や訴訟などの法的手続を開始すれば、引き続き時効完成を防げます。なお、催告の効力が及ぶのは消滅時効のみ。財産分与の「除斥期間」を止めることはできないため、別途、期限内に調停申立て等で権利を行使する必要があります。
財産分与請求の調停・裁判の申立て
家庭裁判所へ調停や審判・訴訟を申し立てると、消滅時効は「完成猶予・更新」の対象になります。手続中は完成が進まず、合意や審判・判決で確定すれば、新たな起算で時効が進行します(確定判決・調停成立後は原則10年)。
一方、除斥期間は「止める」のではなく、期間内に申立てて権利を行使すること自体が必要。期限が迫るときは申立てを優先しましょう。
特別な事情の証明
相手が財産を隠した、権利行使を著しく妨げた等の事情があるときには、不法行為による賠償請求など別の法的手段を検討できる場合があります。なお、除斥期間の援用が信義則に反すると評価される余地について議論はありますが、ハードルは高め。証拠収集と法的整理が重要になるため、早期に専門家へ相談するのが現実的です。
財産分与を拒否されたときの対処法
離婚に際して財産分与を求めても、相手が応じないこともありうるでしょう。そのような場合は、家庭裁判所での調停・審判、共有物分割請求などの手続で解決を図ることが可能です。家庭裁判所での手続きについて、以下で主なルートを整理します。
財産分与調停
協議が難航するときは、家庭裁判所へ「財産分与調停」を申し立てます。
財産分与調停とは、裁判官と調停委員が双方の主張を整理し、落としどころを探る場。合意に至れば調停調書が作成され、確定判決と同様の効力を持つこととなります。
調停でまとまらない場合は審判へ移行し、裁判所が最終的な分け方を決定します。
共有物分割請求
夫婦共有名義の不動産などは、財産分与と別建てで「共有物分割請求」を用いる方法もあります。同請求を利用すれば、売却して代金を按分する、または持分を買い取って清算する、といった処理が可能。協議で決まらないときは、裁判で売却方法や分配割合を決める流れとなります。
仮に財産分与の除斥期間が経過していたとしても、共有名義である限りは有効な選択肢になり得ます。
強制執行
調停調書・審判・判決で内容が確定しても、相手がこれを履行しないことがあるかもしれません。その場合は「強制執行」を選択し、給与や預金債権、不動産・動産などを差し押さえ、金銭支払いを実現させます。
最終局面の手段ですが、強制執行の実効性は高め。必要書類や差し押さえ先の特定など、準備を計画的に進めましょう。
強制執行の対象とならない財産もある
もっとも、相手のすべての資産を強制執行で差押えられるわけではありません。日常生活に欠かせない一定の動産、給与や賞与の一定割合、年金・生活保護費等の差押禁止債権は保護対象です。どれが禁止・制限の範囲に当たるかは個別判断。実施前に専門家へ確認すると安心です。
不動産あんしん相談室
神田 加奈氏
財産分与の相談に専門チームで対応
財産分与の話し合いが進まない状況の中でも、このまま自宅に住み続けたいと悩む方は少なくありません。状況の解決には、民法に加え、権利関係・評価・登記・住宅ローンまで幅広い知識が不可欠となります。
不動産あんしん相談室は、離婚と不動産の両面に通じた窓口として、専門スタッフが状況を丁寧に整理します。選択肢を比較できる提案を行い、必要に応じて弁護士をご紹介。法的手続きの段取りまでカバーしています。
財産分与の時効後に請求できるケース
相手が話し合いに応じてくれた場合
時効経過後でも、相手が任意に再協議へ応じるなら、あらためて財産分与の合意に向けて動き出すことが可能。除斥期間を過ぎていても、双方の合意に基づく新たな分与契約を目指すことができます。
もっとも、口約束は紛争の火種。合意内容は書面化し、履行方法や期日まで明確にしておくと安心感が高まります。
当事者の合意がある場合
当事者の明確な合意が整えば、時効後であっても新規の契約として分与を実行できます。これは民法上の契約として扱われ、除斥期間の制限とは別枠。合意成立後は、移転登記や名義変更などを適正な手続きに沿って進めます。
後々の見解の行き違いを避けるため、公正証書など強い証明力のある形で合意を残す方法が有効です。
相手が財産を隠していた場合
相手が資産を意図的に隠匿していたと判明したときは、時効後でも救済の余地が生まれます。再協議に加え、不法行為や不当利得といった別の法的構成での請求を検討できる場面です。
これら請求を成立させるためには、通帳記録や契約書面、送金履歴など、隠匿を示す資料の確保が不可欠。早めに専門家へ相談し、主張立証の方針を固めましょう。
不当に財産分与させなかった場合
強い圧力や支配的な関係で協議が実質的に封じられていた場合、信義則違反の主張や、別構成(不法行為等)での請求が視野に入ります。
メール・録音・SNSのやり取りなど、圧力を示す痕跡は証拠価値が高い材料。個別事情の評価が分かれやすいため、証拠整理と主張の組み立てが重要です。
不法行為や不当利得などの他の手段で請求できる場合
仮に財産分与としての権利行使ができなくても、他の法的手段が使えるケースがあります。
たとえば、不正に独占した行為は不法行為、相手に法律上の根拠なく利益が残っているなら不当利得返還請求。時効は、不法行為が「損害と加害者を知った時から3年/行為時から20年」、不当利得が「知った時から5年/発生から10年」が目安です。専門家への早期の相談で方針を決めるようおすすめします。
離婚と財産分与のQ&A
Q.離婚の成立とは?
A.夫婦の法律上の婚姻関係が解消された状態を指します。協議離婚は離婚届が市区町村で受理された時点、調停離婚は調停成立日、裁判離婚は判決確定日が「成立日」です。財産分与の請求期限(除斥期間)は、この成立日から起算します。
なお、2024年の民法改正により、除斥期間は2年から5年へ延長され、2026年5月までに施行予定です。
Q.除斥期間中に財産が処分された場合は?
A.期間内であれば財産分与の申立ては可能です。もっとも、処分済みの物そのものを取り戻すのは難しく、代わりに相当額の金銭(代償金)を求める形が一般的です。
なお、処分が時期を狙った隠匿的行為に当たる場合は、不法行為や不当利得の構成での請求も検討対象になります。証拠の確保と早めの申立てが要点です。
