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夫と離婚することになったものの、「子供を転校させたくない」「近隣との関係を維持したい」などの理由で、引き続き今までと同じ夫名義の家に住み続けたいと思う方は少なくありません。
結論から言うと、離婚しても同じ家に住み続けることは可能です。ただし、住宅ローンの残債があるかないかで、対応方法は異なります。ここでは、離婚後も同じ家に住み続ける方法について、住宅ローンの有無別で解説しています。
離婚後に夫単独名義の家に住み続けるのは避けること
離婚後、夫単独名義のままの家に住み続けることはリスクが高いため、避けたほうが無難です。同じ家に住み続けたいならば、何らかの方法で家の名義を妻に変更しましょう。
たとえ離婚して夫が家を出ていたとしても、名義が夫のままであれば、離れた場所にいる夫の一存で家を売却できます。夫が再婚し、新たな家の購入資金を作るために家を売却されてしまっては、住んでいる妻や子供が路頭に迷うことになるでしょう。
同じ家に住み続けたいならば、将来的なリスク回避のため、まずは家の名義を妻に変更することを考えてください。
家の名義変更は、住宅ローンの残債の有無により対応方法が大きく異なります。以下では、住宅ローンの有無別で、家の名義変更の適切な方法を確認します。
夫名義で住宅ローンが”ない”家に妻と子どもが住み続けたい場合は?
家の名義が夫のままで、かつ住宅ローンの残債が「ない」場合について、離婚後に妻と子供が同じ家へ住み続けるための方法を見ていきましょう。
財産分与で家の名義を妻へ変更
住宅ローンを完済している夫名義の家に住み続けるための王道は、離婚による財産分与で家を妻名義に変更する方法です。
離婚における財産分与額は、原則として夫と妻がそれぞれ1/2ずつ。財産分与の対象には預貯金や株式などのほか、不動産も含まれるため、家の評価額が総財産の1/2以下であれば、妻は財産分与の中に家を含めることが可能です。
仮に、家の評価額が総財産の1/2を超えていたとしても、双方の合意があれば財産分与は可能。仮に家の評価額が総財産の8割を占めていたとしても、夫が合意してくれるならば法的に問題なく家の財産分与が成立します。
家の財産分与に夫が合意すれば、不動産登記の名義を夫から妻へと変更することで、以後はトラブルのリスクなく妻も子供も同じ家に住み続けられます。
妻が夫に代償金を支払って名義を変更
財産分与の対象となる財産が家しかない場合、または家の評価額が総財産の1/2を超えてしまうことに夫が合意しない場合、妻が夫に差額(代償金)を支払って家の名義を妻に変えれば、引き続き妻と子供が同じ家に住み続けることも可能です。
たとえば、財産分与の対象となる財産が家しかなく、かつ家の評価額が2000万円だった場合、妻が夫に評価額の1/2となる1000万円を支払うことで、家の名義を妻に変更できます。
この例において、妻が一括で1000万円を支払えない場合には、夫との協議の上、分割で支払ったり養育費と相殺したりすることも可能。一括払い以外の方法をとる際には、念のため双方の合意内容を公正証書にまとめておくようにしましょう(公証役場で公正証書の手続きをします)。
夫名義で住宅ローンが”ある”家に妻と子どもが住み続けたい場合は?
家の名義が夫のままで、かつ住宅ローンの残債が「ある」場合については、「ない」場合に比べて段取りがやや複雑です。ただし、決して住み続けられないわけではありません。
住み続けるための方法を解説する前に、まずは住宅ローンの名義人と家の名義人の定義、および住宅ローンの残債が「ある」まま家に住み続けることのリスクを見ておきましょう。
住宅ローンの名義人と家の所有名義人は同じではない
家の購入や所有に関連し、たびたび「名義人」という言葉が登場しますが、家に関連する名義人には大きく2種類があることを理解する必要があります。
1つ目の名義人は「住宅ローン名義人」。住宅ローンを契約した当事者を言い、住宅ローンの返済義務がある人を指します。夫が住宅ローン名義人で、妻が連帯保証人や連帯債務者となっているケースも多々見られます。
2つ目の名義人は家の「所有名義人」。家の所有者として法務局に不動産登記されている人を言います。
一般的には住宅ローン名義人と家の所有名義人が同一ですが、必ず同じとは限りません。離婚に伴い不動産関連の手続きをする際には、事前に各名義人を明らかにしておくことが大切です。
住宅ローンが残っている家に住み続けるのはリスキー
家の名義が夫のままで、かつ住宅ローンの残債が「ある」家であっても、夫の同意があれば、引き続き妻と子供だけが残って家に住み続けることは可能です。ただしこの場合、住み始めた当初は問題がなくても、時間とともに問題が生じる恐れもあるので、決しておすすめできる状態ではありません。
住宅ローンの残債の返済を続けるのは家を出た夫ですが、もし夫がリストラや病気・ケガなどで収入が減少した場合、返済できなくなるかもしれません。あるいは、リストラなどの特別な理由がなくても、自分が住んでいない家のローンを支払い続けることに夫が理不尽を感じ、返済を途中でやめる可能性もあります。
いずれの理由であっても、夫が返済しなければ、やがて家は競売にかけられ、妻も子供も家を強制的に退去させられることになるでしょう。夫名義で、かつ住宅ローンの残債が「ある」家に住み続けるためには、将来的なリスク回避のため、次にご紹介する方法を検討してみてください。
夫名義の住宅ローンがある家を”売らず”に住み続ける方法
夫名義で、かつ住宅ローンの残債が「ある」家を「売らず」に住み続けるため、以下で有効な方法を2つほど確認してみましょう。
住宅ローンの名義を妻に変更
夫名義となっている住宅ローンの名義を妻の名義に変更すれば、家を出た夫の返済リスクがなくなり、引き続き妻も子供も同じ家に住み続けられます。もちろん住宅ローンの名義が妻になれば、原則として以後の返済は妻が行うことになりますが、夫の返済リスクにおびえながら過ごすよりは良いかもしれません。
夫名義の住宅ローンを妻名義に変更する方法には、「免責的債務引受」と「夫婦間売買」の2つがあります。
免責的債務引受
免責的債務引受とは、住宅ローンを契約している銀行の承認のもと、夫の住宅ローンを妻が引き継ぐ手続きを言います。
もともと夫の社会的信用力に基づいて契約した住宅ローンなので、仮に交渉したとしても銀行は首を縦に振ってくれない可能性が高いでしょう。ただし、妻の親族の信用力や担保の状況によっては、銀行が了承してくれる可能性もゼロではありません。社会的信用力のある親族を連帯保証人に立てる方法も有効です。
夫婦間売買
夫婦間売買とは、夫から妻に家を売却することを言います。妻が家の買主となり不動産の所有名義を変更すれば、以後は夫が関与するトラブルに発展することはありません。
妻が夫に支払うお金を持っていれば問題なく夫婦間売買が成立しますが、もし持っていない場合には妻名義で新たなローンを組み、そのお金で夫への売却代金を支払い、その後は妻が自分名義のローンを返済する形となります。借り換えを利用した夫婦間売買と考えれば良いでしょう。
妻の信用力のみでは借り換えの審査が難しい場合には、社会的信用力のある親族を連帯保証人として立てたり、住んでいる家とは異なる別の担保を差し出したりなどすれば、審査に通過する可能性があります。
ローンの支払いを夫がする旨を公正証書にする
上記の方法で家の名義を妻に変更した場合、結果として妻の大きな金銭的負担を避けられません。もし、妻が金銭的負担を回避しながら同じ家に住み続けたいならば、住宅ローンを夫に完済してもらうことを夫婦で取り決め、かつ取り決めた内容を公正証書に残しておく方法が有効です。
公正証書とは、法務局の公務員である公証人が作成する公文書のこと。公正証書に記載された内容は、相手からの反証がない限り、完全な証拠能力を持ちます。公正証書を残しておけば、夫の住宅ローン返済をめぐり、厄介な紛争に発展するリスクを大幅に下げられると考えましょう(100%リスクを無くすことはできません)。
口約束だけでは、やがて夫は住宅ローンの返済をしなくなる可能性があります。離婚後の住宅ローンを夫が引き受けることとなった場合には、必ず公証役場でその旨の公正証書を作成しておきましょう。
公正証書にしても不動産の名義変更は強制執行できない
公正証書の記載内容によっては、慰謝料・養育費などの債務性ある金銭を夫が妻に支払わない場合、裁判所を経ず直ちに強制執行へ入ることが可能です。
ただし、不動産名義の変更手続きは、夫の協力なくして強制執行ができません。家の名義が夫のままである以上、夫の一存で家を売却される可能性もあります。もとより、公正証書に「夫が住宅ローンの残りを完済する」という旨の記載があったとしても、夫の経済状態によっては滞納を避けられないかもしれません。無い袖は振れないからです。夫の滞納が続けば、やがて家は競売にかけられ、妻も子供も家を立ち退くことになります。公正証書とは言え、この一連の流れを止めることはできません。
不動産あんしん相談室
神田 加奈氏
公正証書は魔法の書類ではありません。
弁護士に相談して、ワーストケースに備えておきましょう
仮に妻が住宅ローンの連帯保証人だった場合、公正証書うんぬんの前に、夫が住宅ローンを滞納すれば銀行は妻に返済を求めることになります。妻に返済能力がなければ、最終的に妻は債務整理(自己破産など)となる可能性も。離婚協議の内容を公正証書に残しておくことは非常に大事ですが、トラブルが生じたとき、全てを丸く収めてくれる書類ではないことも理解しておく必要があります。
家を売却するという方法も検討する
離婚後、夫が家を出て妻と子供が家に残ることは、決して不可能ではありません。現に、ここまで説明したような手続きで、引き続き同じ家に住み続けている妻と子供の例はたくさん見られます。ただし、決して楽な手続きではないことも、ここまでの説明で理解できたでしょう。
これら煩雑な手続きや将来的なリスクを避けるためには、家を売却するという方法も現実的な選択肢の1つとなります。
住宅ローンが残っていない場合には、特に問題なく家を売却することが可能です。住宅ローンが残っている場合でも、残債分を現金で補填することで売却できます。現金一括で補填できない場合には、任意売却という特殊な手法で家を売却できることもあります。
「家を売却したら、自分と子供は家を出ていかなければならなくなるのでは?」と思った方がいるかもしれませんが、買主に大家となってもらい、家賃を支払いながら同じ家に住み続けるリースバックという手法もあります。
残債がなく、かつ夫が家の名義変更に応じてくれることが最も理想的な方法ですが、様々なトラブルやリスクが想定される場合には、家の売却も1つの選択肢として検討してみましょう。
夫名義で住宅ローンが「ない」家に住み続けたい場合には、財産分与等で家の名義を妻に変更する方法を検討してみましょう。また、夫名義で住宅ローンが「ある」家に住み続けたい場合には、借り換えで住宅ローン名義を変更する方法や、公正証書を作成してローンの支払いを夫に約束させる方法が有効です。
ただし、住宅ローンが残った状態の家に住み続けることは、いずれの方法を採ってもリスクが残り続けるでしょう。可能な限りリスクを抑えながら、引き続き自分も子供も安心して家に住み続けるためには、離婚時の不動産トラブルに精通した不動産コンサルタントに相談してみるようおすすめします。